アイデンティティの確立 その4

 前回までのところで「アイデンティティの確立」とは「自分を取り巻く人々とどのような関係を結ぶのか」ということであり,自分を取り巻く人々とは,例えば「家族」「友人」「地域社会」「国家」「世界の人々」というように,広がりを持っている,ということを書きました。

 では,私たちは,それらの人々に対してどのような態度で向き合っていくべきなのでしょうか?

 このことについて考えるとき,「こういう態度でなくてはいけない」という「~であるべき」ではなく「こういう態度でありたい」という「~でありたい」という視点から考えてみたいと思います。つまり,「人はこうあるべき」という「思想」からアイデンティティというものを考えるのではなく,「人が発達していく過程で自然に生じてくる心の働きをそのまま是認する」という立場からアイデンティティを考えるということです。

 まず,人が生まれてきて最初に認知する存在は親です。乳幼児期の子どもは親を無条件に信頼しています。親が大好きです。親に嫌われることはとても悲しいことです。親には好かれたいと強く願います。親とはできるだけ一緒にいたいと思います。あまり親と会えない状態になれば,ひどくさびしい気持ちになります。また,大好きな親が悲しんでいたり苦しんでいたりするのを見るととても辛い気持ちになります。自分が幸せな気持ちでいたいのと同じように大好きな親も幸せでいてほしいと思います。

 ある程度成長してくると,今度は友達と一緒に遊びたいという気持ちが出てきます。友達に対する思いも親に対するものとほぼ同じではないでしょうか。友達が大好きですし,一緒にいたいと思います。友達と会えないと孤独を感じます。大好きな友達が悲しい表情をしていれば自分も悲しくなります。

 このような心の働きは生まれたあと学習して身につけたり教えられたりしたものではありません。発達におけるプロセスの中で自然に生まれてくる心の働きです。この働きを表現する言葉を探すのはなかなか難しいのですが,「愛する」という言葉が一番近いかもしれません。

 そして,家族,友人から広がって,地域社会,国家,世界の人々に対して生じるのも基本的に同じ「愛する」という心の働きだと言っていいのではないでしょうか。

2013.2.4 豊永